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前回までのあらすじ
美味しいカリーへの渇望は、時に人を旅へといざなう。我ら Curry Crew は基本的に日本を舞台に活躍しているが、海外からのオファーがあればその距離如何にかかわらず必ず出撃することにしている。
11月中ごろ、世界を代表するカリー先進国の一つであるタイ王国に住む一人のカリー権威者から、1通のメールが入った。是非 Curry Crew にタイカリーの美味しさを紹介してほしいと。
メールを読んだMarは、次のように返信した。
「美味しいかどうかは食べてみてこちらで判断することになりますが、そういう要請であれば、とにかくすぐにでもタイに向いますタイ」と。
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せっかくの海外オファーだ。Curry Crew全員で訪タイするのが礼儀であろう。しかし、日本でのカリー作業に支障をきたすことも懸念されたため、協議した結果、今回はMarが一人で対応することにした。
早速、今回の案件用に「I Love Thai Curry」T-シャツを新調し、一路バンコクへと飛んだ。
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バンコクは暑かった。冬の日本との温度差約20数度。日本の夏と同じくらいだ。しかしカリーが一番美味く感じる気候でもある。9月に開港したばかりのスワンナプーム空港にタイカリーの権威者Aさん(28歳)と秘書がクルマで迎えにきてくれていた。
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到着が夕方だったため、Aさんはその足でカリーディナーへと連れて行ってくれる。チャオプラヤ河沿いにあるレストラン「River Bar Cafe」は、テラスがあってオシャレな雰囲気。
店内ではバンドの生演奏などもやっており、私の好きな Super Furry Animals の Juxtaposed With U が流れていた。カリーを食べるシチュエーション的には最高だ。
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まずタイカリー以外のタイ料理を堪能する。どれも美味。そしてこの店一番のオススメであるタイカリーを賞味する。記念すべきファーストタイカリーだ。
それは強火で炒めたカニが入ったカリー「プー・パッド・ポン・カリー(Poo Pad Pong Ka Ri)」というもの。ムムッ、これは、ものすごく味の素が効いていて美味い。さすがはカリーの国タイ。グルタミン酸が穏やかに舌を刺激し、カリーが喉を通り過ぎた後、じわっとした辛みが口の中に広がる。
Aさんによると、このカリーは日本の小泉純一郎前総理が訪タイした際に特に気に入っていたというカリーだそうだ。このメニューを私のファーストタイカリーに選んでいただくとは、なんとも粋な計らいである。
続いて、ココナッツクリームと豚肉が入ったドライカリー「ケーン・パナン・ムー(Kang Panang Moo)」を食す。ちょっと甘みのある熱い国のカリーな印象だ。
訪タイ初日からタイカリーを味わえるとは幸せだった。Aさんを初めとしたタイカリー権威者たちと、カリーに囲まれた素敵な夜を過ごす。
次の日、古き都、アユタヤに足を運ぶことにした。首都バンコクからバスで2時間。オールドタイカリーを確認するためだ。
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アユタヤでは前々から取りたかったトゥクトゥクの免許を取得。これで自由に動ける。免許取立てのトゥクトゥクで向かった先は、この街で一番大きなマーケット。
オールドタイカリーの味とはいかがなものか。
適当なタイカリー屋台をチョイスし、2種類のカリーをごはんの上にトッピングしてもらう。一つは「ケーン・ソーム(Kang Som)」という魚や野菜がごちゃまぜに入ったカリー、もう一つは「ケーン・ノーマイ・カイ(Kang Normai Kai)」という竹の子入りのチキンカリーだ。
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かなりスパイシーである。ケーン・ソームは魚が入っているとはあまり感じられない。日本ではあまり魚入りや竹の子入りのカリーはお目にかかれない。まぎれもなくオールドタイカリーだ。イッツ・ユニークである。
ちなみにこれは後で権威者のAさんから聞いた話だが、「ケーン・ソーム(Kang Som)」は、タイの中部地方で呼ばれている名前だそうで、タイの南部では同じものを「ケーン・ルゥォン(Kang Leaung)」というらしい。
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私が美味そうに食べていると、教習所の教員アナン(Anan)さんが横で欲しそうにしてたので、「アーン」して食べさせてあげた。
アナンさんうれしそう。
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アユタヤでは、予定通りオールドタイカリーをきちんと確認することができたので、次の日はバンコクに戻ってちょっと異質なタイカリーを探すことにした。
タイではカリーのことを「ケーン(ゲーン)(Kang)」と呼ぶ。探したのは「ケーン・ヂュー・サライ(Kang Jeud Salai)」というもの。厳密に言うとカリーではないのだが、カリーの一種を指す「ケーン」の音を名前の冠に持つスープで、海苔やハルサメや豆腐などが入っていてかなり日本的なタイカリーだと言える。
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昼間いろいろと探し回ったがなかなか出会うことが出来ず、夜になってようやくThong Lo駅周辺の屋台街で発見することができた。
食べてみると、すまし汁のようなスープ。ほとんど辛みもない。たしかにカリーではない。しかししっかりと味の素は効いているので日本人なら必ず好きになるだろう。こんな準カリーもたまにはアリだなと感じる。
まさにこれはジャパニーズカリーとタイカリーの橋渡し役である。そしてその橋の根幹は何を隠そう「味の素」に他ならない。
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次の日は大事なカリーカンファレンスの日。タイカリー権威者達と、バンコクでも有名なレストラン「Anna's Cafe」へ向かう。このレストランのシェフは料理番組も持っているという。得意料理はカリーらしい。
この有名店で、「カオ・ソイ(Kao Soy)」、「ケーン・ルゥォン(Kang Leaung)」、そして「ケーン・ケアゥ・ワン・カイ(Kang Keaw Wan Kai)」と立て続けにタイカリーを浴びる。
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Aさんの解説によると、カオ・ソイ(Kao Soy)は、タイ北部、とりわけチェンマイあたりの地方カリーらしくで黄色い麺が特徴だと言う。今回2度目となる「ケーン・ルゥォン(Kang Leaung)」は、アユタヤで食したそれとはまた違った高級感のある仕上がりだった。アナンさんにもこれを食べさせたかった。
そして、ケーン・ケアゥ・ワン・カイ(Kang Keaw Wan Kai)は、チキンがメインのグリーンカリーの一つである。
いや〜しかしここのカリーは全体的にすごかったと思う。何がすごいかというとやはり味の素の入り具合が絶妙なのだ。やはり有名シェフは「さじ加減」というものをよく知っているなと感心した。
このカリーカンファレンスでとある情報を仕入れることになる。なんと隣国カンボディアには、非常に特殊なカリーが存在するというのだ。せっかくタイまで来ているのだからカンボディアまで足をのばしてそれを食べて帰ったらどうかと。その言葉は私のカリー魂に火をつけた。
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善は急げ。「I Love Thai Curry」T-シャツを脱ぎ捨た私は、デフォルトの「I Love Curry」T-シャツに身を包み、次の日の早朝、空路カンボディアはシェムリ・アップへと飛んだ。
そこはアンコールワットのお膝元でもある。
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着いてすぐに、バイタク(バイクタクシー)をチャーターして、アンコール遺跡群へと入る。バイタクのドライバー Bunthaさん(27歳)にカンボディアカリーの情報を聞いたところ、有名なレストランを知っているというので連れて行ってもらうことにした。
2ケツしたままアンコール遺跡の中を風をきって進むバイタク。
途中でガソリンが切れたので、ENEOSアンコール東口店で給油。「ハイオク満タンで」
おばちゃんがペットボトルでガソリン注入。
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そしてしばらく森の中を進んだところにレストランが。名前は忘れた(たしか K何とか Village Restaurant)。
Bunthaさんに詳しくカンボディアカリーについて聞いた。名前はアモック(Amok)というらしく、ココナッツスープがベースのカリーらしい。基本的にカンボディアではカリー文化はそこまで発展しておらず、アモックさえ食べればカンボディアカリーは制覇したも同然だという。
よしそういうことであれば話は早い。早速注文してみよう。
Mar : 「キーマりました。オーダーいいですか?」
店員 : (無視)・・・
どうやらカリー語は万国共通ではないようだ。。。
仕方なくBunthaさんにクメール語で注文してもらった。
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待つこと10分。ついにアモックとご対面。白っぽいスープに魚や香草が入っている。
「いただキーマっす」と小さな声で一人カリー語を唱えながら口に運ぶ。香草の味が強く辛さは思ったほどない味だ。ココナッツスープのせいか、少し甘みさえ感じる。
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クメール文明が生んだ独特のカリー。内乱や近隣諸国の侵攻にもたえ、よくぞこの時代まで生き延びた。
そんな感慨にふけりながら食べ続けるが、どうも心にぽっかりと小さな穴が空いている。どうしてかしばらく考えてみたらわかったのだ。このカリーにパンチが無い理由が。
タイカリーにはあってカンボディアカリーにはないもの。それは「味の素」。あの魔法の白い粉がこの国のカリーには欠落している。だから日本人の私の心に響かないのだ。
カンボディアは稲作がとても盛んなため、米についてはタイよりも美味しい。その味や形も日本米によく似ている。
しかし「味の素」が使用されていないが故に完成されたカリーには成りえていない。クメール食文化は「味の素」を必要としている。平和が訪れた今こそ「味の素」を輸入すべき時なのだ。
アンコールのカリーを確認した夜、シェムリ・アップの街に戻り、次なるカリーを求めてさまよった。
そこにあった北朝鮮国営のレストラン「平壌冷麺」。喜び組のショーが見れるということでバックパッカーたちの間で有名なそのレストランに北朝鮮のカリーを求めて入る。が、メニューにカリーはない。残念だ。理由を聞いたところ「将軍様はカリーを食されないから」という。
仕方なく店名にもなっている「平壌冷麺」を食べ、「喜び組」のすばらしいショーを見て帰る。
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シェムリ・アップを後にした私は、バンコクへと戻り、再びAさんに迎えに来てもらって、仕上げに庶民のタイカリーを食べることにした。もちろん「I Love Thai Curry」T-シャツに着替える。
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まずは、チャトゥチャック市場で、魚から作ったカリースープの「カー・ナム・チーン・ナムヤ(Kha Nom Jean Nam Ya)」を食べる。
これはカリー味のヌードルで、最初は魚の肉団子と麺が入っているだけなのだが、トッピングで野菜とか香辛料とかをのせて食べる。
やはりアンコールのカリーと比べると「味の素」が入っているため日本人の私にはかなり合う。ものすごく辛いが味は最高だ。
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次にチャイナタウンへ移動して、タイカリーと言えばこれを忘れたらいけない「グリーンカリー」を食べる。
名前は、「カー・ナム・ジーン・ケーン・ケアゥ・ワン(Kha Nom Jean Kang Keaw Wan)」。こちらもヌードル版を注文。グリーンカリースープに、にゅう麺みたいなものと竹の子みたいな野菜と肉が入っている。
かなりスパイシーで火が出そうだが、味は確かだ。なぜならそこには「味の素」が入っているから。
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味の素文化万歳!
今回の旅では、実にたくさんのカリーを確認することができた。これもひとえにAさんたちをはじめとするタイカリー権威者たちのおかげに他ならない。この経験を生かして、日本でもより一層カリー作業に励まなければならないと思った。
Aさんに「本当にありがとう。ジャワまた来ますね」と再会を誓いバンコクを後にした。
さて、次はどこのカリー店に出撃しようか。。
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